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絵画「一九四六」と 王希奇氏

絵画「一九四六」について

「一九四六」2012-2015年 油彩、画布300×2000cm 作家蔵

「満州」からの引揚げの絵を中国人の画家が描いたものである。

それは縦3メートル・横20メートルに及ぶ巨大なもので、葫蘆島の港に着岸した引揚船に向かって歩く群衆の姿がどこまでもどこまでも続いている。

 

ようやく辿り着いた日本への引揚港、葫蘆島。

そこにはボロをまとい、子どもを背負い、風呂敷を抱え、中には骨箱を首から下げ、故郷に帰る人々が描かれている。葫蘆島までの道のりの壮絶な苦難がその群衆から立ち昇ってくる。肉親と死別し、人間の感情を失うほどの体験をした。それでも、生きて帰る人々。祖国で待っている更なる苦労に立ち向かう人々の姿であった。

 

中国にとって「満州国」は「偽満」であり、帝国日本の傀儡。屈辱の歴史でもある。

日本の敗戦とともに崩壊した「満州国」。

取り残されていた日本人はどこの保護下にも置かれず飢えと寒さと疫病で犠牲者が続出した。

引揚事業は1946年5月から始まる。厳しい冬を乗り越えた人々の帰還。

「一九四六」とはその1946年のことだ。

 

中国の画家・王希奇氏。出身は葫蘆島が位置する中国遼寧省錦州市だ。

王氏にとっても知らない歴史であったが、ある時、日本人の引揚げの写真に出会う。

骨箱を抱えた少女の表情が心に残る。

彼らの歴史を紐解き、その残酷さを身に染みて感じ取り、この歴史を絵画作品にすることを決意する。3年半という歳月をかけ、描いていく一人ひとりと対話をしながら巨大なキャンバスに向き合う。

 

ーこの人に何があったのか。

ー何を思うのか。

それは、「自ら引揚げを経験したような大変つらい過程であった」という。

それでも「一人ひとりの心の声を記憶に残したい」と挑んだ作品である。

中国の人が描いた「一九四六」。

作品が訴える国や時代を越えたヒューマニズムは、人々の心を動かし、大切な何かを響かせ合うことだろう。

 

画家 王希奇氏について

画家 王希奇氏

1960年、葫蘆島市の隣の錦州市生まれ。現在は瀋陽にある魯迅美術学院油絵学部の教授をつとめながら創作活動をしている。東洋的墨絵の伝統要素を西洋油絵に融合させた画風で国内外から高い評価を受けている。特に歴史をテーマとする創作を得意とし、中でも国家金メダル賞を受賞した「三国志・赤壁の戦い(合作)」ほか「長征」など大型絵画が代表作である。2012年から2017年にかけて、この「一九四六」をはじめ、葫蘆島からの日本人の引揚げをテーマにした関連作品50点を制作。夫人の王秋菊氏は瀋陽の東北大学外国語学院副院長で日本の城西国際大学の客員教授でもある。



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